国連「家族農業の10年」がスタート! 開幕式参加報告
2019年5月29日、イタリア・ローマにある国連食糧農業機関(FAO)本部で、国連「家族農業の10年」の開幕式[1]が開かれました。5月27日〜29日は、開幕式に関連した会議やセッションが開かれ、世界83カ国から農林漁民組織、NGO、国際機関、政府機関、研究機関などの約450人が参加しました。
「家族農業の10年」(2019~2028年)は、2014年の「国際家族農業年」を10年間延長するもので、2017年12月20日の第72回国連総会で日本を含む国連加盟国104か国が共同提案し、全会一致で可決されました。家族農業とは、「農業労働力の過半を家族労働力が占めている農林漁業」と定義されます。世界の食料の8割が家族農業によって生産され、世界の全農業経営体数の9割以上を占めており、持続可能な農業や食料保障の実現のために最も重要な存在であると評価されています。
開幕式で挨拶した国連食糧農業機関(FAO)のジョゼ・グラジアノ・ダ・シルバ事務局長は、持続可能な開発目標(SDGs)の目標2に掲げられた「飢餓をゼロに」の達成のためには、家族農業が不可欠であることを強調するとともに、現に飢餓と肥満は増えている現実を示し、家族農家が生産する健康的で栄養価の高い食料生産を支える重要性を訴えました。また、FAOとともに「家族農業の10年」を主導する国際農業開発基金(IFAD)のジルベール・F・ウングボ総裁は、巨大企業による食品の低コスト志向は持続可能ではないことを指摘し、農村経済を支えている小規模な家族農業に投資することで、持続可能な食料生産と食料保障を確保する必要性を訴えました。
開幕式では、「家族農業の10年」を具体的に推進していくための世界行動計画(グローバル・アクション・プラン)[2]が発表され、これをもとに各セッションの議論が進められました。計画は以下の7つの柱(仮訳)で構成されます。
1 家族農業を強化するための実現可能な政策環境を構築する
2(横断的柱) 若者を支援し、家族農業の世代間の持続可能性を確保する
3(横断的柱) 家族農業における男女平等と農村の女性のリーダーシップを促進する
4 家族農業組織とその知識を生み出す能力、加盟農民の代表性、農村と都市で包括的なサービスを提供する能力を強化する
5 家族農家、農村世帯および農村コミュニティの社会経済的統合、レジリエンス(回復力)および福祉を改善する
6 気候変動に強い食料システムのために家族農業の持続可能性を促進する
7 地域の発展と生物多様性、環境、文化を保護する食料システムに貢献する社会的イノベーションを促進するために、家族農家の多面性を強化する
開幕式に関連したイベントでは、各国の農林漁民組織や研究機関らによる地域別・テーマ別のセッションが開催されました。アジア・南太平洋地域のセッションには、日本から公益社団法人全国愛農会会長の村上真平氏がパネリストとして登壇し、自身が実践する自然農法の経験から、気候変動や環境破壊が世界的な問題となるなか、FAOも推進するアグロエコロジー(生態系を守る農業、社会のあり方を求める運動)の重要性や、日本の産消提携をモデルに世界に広がるCSA(地域支援型農業)の可能性を訴えました。
今後、世界行動計画をもとに、各国で国家行動計画(ナショナル・アクション・プラン)が策定され、実行に移されます。特に強調されたのは、従来のような政府がトップダウンで決める方法ではなく、農民や市民社会からボトムアップで対話をしながら政策を実現すること、実施状況と変化をモニタリングすることの重要性です。
日本では、「国際家族農業年+10」(IYFF+10)のサポーター組織として2017年6月に設立された小規模・家族農業ネットワーク・ジャパン(SFFNJ)が呼びかけ、「家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン(仮称)(FFPJ)」を2019年6月に設立し、マルチステークホルダーによる政策対話の場を作っていきます。日本政府は、国際的な潮流に逆行するような食料・農業政策を推進していますが、プラットフォームでは、国連が推進する小規模・家族農業を中心とした政策に転換し、家族農業と農山漁村を支えていくことを求めていきます。
参考