SMALL AND
FAMILY FARMING
世界の食料の8割を生産する小規模・家族農業
小規模・家族農業とは
農業労働力の過半を
家族労働力が占めている農林漁業
国際的に議論が高まっている「小規模・家族農業」とは、どのようなものでしょうか。国連では、「農業労働力の過半を家族労働力が占めている農林漁業」と定義しています[1]。
家族農業は家族を基盤とした農業ですが、家族の形態は時代とともに変化しています。家族農業は人的つながり(絆)を持つ社会集団による農業であり、必ずしも血縁によって結びついた家族による農業のみではありません。非血縁の養子縁組や事実婚の家族も含まれるでしょう。また、一人で営む個人経営も、労働力の過半をその個人の労働力でまかなっている場合は、家族農業に準じて議論されています。
つまり、家族農業とは、資本的つながりによって結合した社会集団による企業的農業に対置する概念として位置づけられています。今日では、法人化した家族経営の大規模農業も存在しますが、労働力の過半を家族労働力でまかなっていると定義することで、おおよその経営の性格区分をしています。もちろん、この定義は国・地域の多様性に合わせて検討されるべき課題です。
[1]国連世界食料保障委員会・専門家ハイレベルパネル著『家族農業が世界の未来を拓く―食料保障のための小規模農業への投資―』(農文協、2014年)、および国際家族農業年に関するFAOウェブサイトをご参照ください。
持続可能な農業の実現のために
最も効率的な小規模・家族農業
ところで、家族農業というと、どうしても封建的な家父長制のイメージや男尊女卑などによるジェンダーの問題を想起してしまうかもしれません。確かにこうした問題は、過去にも現在にも地域差はあるとしても存在しています。しかし、家族農業は時代の流れの中でつねに進化していく存在でもあります。より民主的な関係性の構築を目指す新しい家族農業が、日々地域の中で生まれていており、これは世界的な潮流にもなっています。
もうひとつ、小規模・家族農業というと、どうしても「時代遅れ」「非効率」「儲からない」といった印象を持つ方もいらっしゃるかもしれません。これも国・地域による差がありますが、確かに近代的農業の視点からみて、このような小規模・家族農業のネガティブな側面が語られることは少なくありませんでした。
しかし、近代的農業による負の側面、すなわち環境汚染、枯渇性資源への依存、水資源の枯渇、食の安全性、気候変動等も次第に明らかになってきました。また、近代的農業モデルの下で進んだ国際農産物・食品市場への過度の依存は、地域の食料主権を脅かしており、世界的食料危機(2007〜08年)以来ますます疑問視されています。さらに、遺伝子組み換え作物など、近代的農業の発展の中で生み出された技術による環境・社会への悪影響も指摘されています。
こうした中で、時代遅れだと思われていた小規模・家族農業が、持続可能な農業の実現という目標に照らして、実は最も効率的だという評価がなされるようになりました。2014年にFAO事務局長は、「家族農業以外に持続可能な食料生産のパラダイムに近い存在はない」「国や地域の開発において、家族農業を中心とした計画を実行する必要がある」と述べています。