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第6回世界家族農業会議「家族農業の生活を改善するための10年」参加レポート(2)


第6回世界家族農業会議「家族農業生産者の生活向上のための10年」に参加して

~農民の社会的地位を向上させるには、具体的にどのような事柄があげられるか~農民の視点から

小規模・家族農業ネットワーク・ジャパン(SFFNJ)呼びかけ人

一反百姓「じねん道」斎藤博嗣

 こんにちは=Kaixo!(バスク地方の言葉「Euskara語」、スペイン語では、Hola)

 現地では地元の方たちは喜んで「Kaixo」とあいさつを返してくれました。

 私は、小規模・家族農業ネットワーク・ジャパン(SFFNJ)の農民代表という立場で、子供たち同伴で家族4人、スペイン・ビルバオで開催された会議に行ってきました。今回「農による新しいシティズンシップ」というテーマを持って、農民そして市民の個人としての視点でも参加しました。

 参加団体に関しては、交換した名刺や資料などで、帰国後も調べることができると思い、この会議で出会った人のパーソナリティ「生の声」を聴くこと、「一期一会」を大切にしました。団体によって作られるメンバーシップではなく、個人によって自発的につながるシティズンシップは、時には国家の枠を超えた国際的な人間関係・市民運動を展開し、大きな社会や国家を動かすこともあると考えているからです。

 この報告書は、短いルポルタージュという形式でレポートします。

会議出席者に配布されたノート

 私はいくつかのワーキング・グループに参加し、特にアジアの地域の方々とそれぞれ異なる背景を持つ農をめぐる協働等の意見交換をしました。共通の課題がたくさんある反面、社会的背景が違うことで、互いの理解が難しい部分もありました。

 例えば、私が居住し小さな家族農業を営む地域に、都市から移住し新規就農した住民として溶け込むキッカケは、伝統的なお祭りよりも(地元のお祭りは、交流という良い側面と因習的なマイナスの両面を持つ)、週末に練習する地元のサッカーチームに参加することで、私が地域に公平性・透明性のあるコンタクトを持てた事例を提言「スポーツによる新規就農者と農村・農民交流」として、ポストイットでグローバルアクションプランのボードに貼りつけました。アジアの方々の反応は「何のこと???」今一歩疑問符が上った気がしましたが、ファシリテーター(Global Engagement Specialist)、IFAD(国際農業開発基金)Torben Nilssonさんは、「面白い提案だ」と言いました。

 「個人的に出会うことは非常に大切」

 「農民同士の話し合いへの資金援助はIFADとしても考えられる」

 「農民の社会的地位を向上させるには、具体的にどのような事柄があげられるか」

 参加した皆さんからも、とても熱のこもった共感できる意見や提言を多数聞くことができました。

 議論された内容は全員が集まる会議場で報告されました。

 ジャマイカのビア・カンペシーナ(La Via Campesina)の方は、「私たちが直面しているのは、農の現場や農村に若者が少ないということだけではなく、世代継承。トレーニングはあるが、戦略というものがなく、皆外に出て行ってしまう。農村の人々が離れていかないように、一緒に働く、協働していくことが大切」

 若い生産者のプレゼンテーションとして、フランス青年農業者協会の方は、「EUの家族農業の定義は、工業的な規模ではなく、人間的な規模であること。農家の社会保証の改善が必要で、地域の価値を守っていくこと。新しい農業、アグロエコロジー(Agroecology)の支援等を通し、農家の自立性を高めていくこと」など、たくさんの報告、提言、質問が上がりました。

 国連「家族農業の10年」のアジェンダに反映されるせっかくの機会なので、フロアからの質問議論の時間に、私は手を挙げて、SFFNJの関根さんに通訳して頂き、下記の発言(提言)をしました。

(発言時間が限られたため、実際は手短な発言でしたが、本レポートでは会場で伝えたかった内容を加筆し、全文掲載しています)

 

 私は日本から農民として参加している斎藤博嗣です。夫婦と子ども2人(小学生)の家族4人で、小さな家族農業を営んでいます。都市部の東京から農村に移住し、新規就農して15年が経ちます。日本の農業の現状は、農業就業人口率2%、食料自給率38%(カロリーベース)農業従事者の平均年齢は68歳、ということから見ても、日本では農業が大切にされていません。

 日本が輸入に頼り、皮肉なことに飽食である生活スタイルは、他国の犠牲の上に成り立っており、日本人として非常に反省すべきことである。その結果、日本の開発援助モデルODAなどが、援助ではなく、現地の農民の声を無視して、土地の収奪、水へのアクセス分断、伝統的農村コミュニティの破壊などの被害を与えている。

 家族農業の10年を通して、日本国内の小規模・家族農業に適切な政策的支援を行い、日本と他国の持続可能な社会形成にこそ税金を使うべきであるという世論を喚起していきたい。

 前日のワーキング・グループの中で、ファシリテーターをして下さったNilssonさんが、《農民の社会的地位を向上させるには、具体的にどのような事柄があげられるか》と問われていましたね。

 私の提言は、農民を社会的存在として尊敬される職業にするために、家族農業の10年のアプローチは、FAOやIFADに留まらず、ユネスコのプログラムESD(Education for Sustainable Development)「持続可能な開発のための教育」などと連携し、「家族農業の10年」という枠を超え、国連の各セクターを横断するプロジェクトにすること。例えば、日本では教育改革「新学習指導要領」に「持続可能な社会の創り手」の育成を掲げている。

 日本で今年3月発売されたブックレット『よくわかる 国連「家族農業の10年」と「小農の権利宣言」』SFFNJ編には、この国際会議にも出席されているFAOパートナーシップ・南南協力部長Marcela Villarrealさんが、『家族農家の知識は、地域におけるアグロエコロジーの革新プロセスを持続し地域の農業遺産システムを維持するためにも不可欠』と文章を寄せて下さっています。まさに農民こそ「持続可能な社会の創り手」の旗手だということを表していると私は思います。

 農民や農村で暮らす人々の再評価のために、ESDプログラムや学校の教科書にSDGs(Sustainable Development Goals)「持続可能な開発目標」を達成する主要アクターとして、農業という仕事やそこで暮らす農民が尊敬される存在として掲載されるような啓発活動を、家族農業の10年のアジェンダに盛り込むことを強く望みます。そして、子ども達にとってファミリー・ファーミングが地球的課題を解決する憧れの仕事になることが、このキャンペーンの成果にならなければならない。

 世界的に見ても、農業は「担い手不足」が共通の課題です。農業を仕事とする人が増える具体的なプランを軸にアクションを展開すべきで、結果的に農民が増える政策でなければ、キャンペーンは失敗なので、方向性を見直す必要がある。農業の抱える課題を、農民・農村の問題とするのではなく、同じ時代、同じ地球上で生活する「私たち皆」の問題として考えること。食・健康・教育・水資源・生物多様性、異常気象による地球温暖化等、世界的課題の解決「SDGsの主役が農民」ならば、農業を個人的職業ではなく社会的事業と捉え直す政策が求められる。

 誰もが当事者「地球を救う機会を持つ最後の世代」(世界を変革する行動の呼びかけ、SDGsアジェンダ2030宣言文より)として、あらゆる人が農業や農村の価値を再発見する根源的なビジョンが必要です。家族農業の10年やSDGsをめぐって、国境を越えた農民同士が討議し協力するようになった現在、やがて農民という言葉に代わって、地球と共に生きる農民こそが「新しい地球市民」として、敬意を払われる存在になることを願い、日本の農民としてこの国際会議に参加しました。地球規模の危機を抱えるこの時代に、私は自然に対する畏敬の念と深い内省を持ちたい。永続可能な世界のグランドデザインには、一人ひとりの足元に「土」のある生活設計こそ必要であると考えます。

(上記の提言は、Nilssonさん宛てにメールをすれば、国連「家族農業の10年」のアジェンダに反映するとお聞きしたので、英文で送信しました)

 

 私としては、最も会ってお話しを伺いたかった、ビア・カンペシーナの総合コーディネーターで、ジンバブエのElizabeth Mpofuさんがいらっしゃらなかったので、とても残念でした。

 ビア・カンペシーナ国際調整委員会のJoan Bradyさんが登壇し、「若者と女性、小規模・家族農業、食の主権いずれの意志決定の課程にも農民自身の参加が必要です。水、土地、種子へのアクセスなど、アグロエコロジーは単なる生産方法ではなく、農家が自然と共に働くイノベーティブな生活様式のことです」とお話しされた後、昨年12月に国連総会で採択された『UN Declaration on Rights of Peasants and Other People working in rural areas:小農と農村で働く人々の権利に関する国連宣言(小農の権利宣言)』に触れ、「小農を家族農業の中心に、自己決定権、ジェンダー(女性の問題が今一番アクションを起こすべき)、多国籍企業による自由貿易支配に対し、ビア・カンペシーナは持続可能な社会に答えを持っている。ビア・カンペシーナは農家によって率いられている。色々な政府や機関が優先されないことを望む。最後に、小農の権利宣言が、この家族農業の10年の中で、食の主権、土地への権利など、『人間の声を聴くこと』として使われることを願います」と力強いメッセージを発信していました。

 この国際会議の開催地のバスクからは政府の農業、漁業および食糧政策として「変革は農水省だけでできる訳ではありませんが、農業が変われば、教育・健康・福祉などすべてが変わります。小さな存在かもしれないが、社会保障がない人達をそのままにせず、農民が誇りを持てるような国レベルの支援をしていかなくてはいけない。No Farmer, No Food, No Future」と締めくくりました。

 私は家族4人で、会議場のエントランスホールで、私の考えを書いた文章と私達の育てた種子を、世界各国から集まった参加者の皆さんに「We are Small Family Farmers from Japan. These are our Home-Grown Seeds.  Please sow seeds in your country!  "Agriculutural Movement for and by All Global Citizens" leading to "Green Life Chain"  Let's connect the world!!(私達は日本の小さな家族農家です。これらは私たちの自家採種のタネです。ぜひ、皆さんの国でタネを蒔いて下さい!地球市民皆農による、緑の生命連鎖で、世界をつなぎましょう」と伝えながらプレゼントしました。五大陸に渡る多くの方々に快く受け取って頂き、栽培や食べ方にとどまらず色々な会話もできました。CFS(世界食糧安全保障委員会)・FAOのドミニカ共和国常任理事会のMario Arveloさんは、何と!!日本語で話しかけてくれました。子ども達も「またタネをプレゼントしたい!楽しかった」と言って、種子を通じた国際交流を満喫しました。

 会議以外のフロアで、家族農業の10年の発議国のコスタリカの男性も日本の活動に興味を示して下さり、コロンビアの政策立案者と先住民の伝統農法の話をしたり、アフリカのニジェールの研究者からはアフリカの小農のサポートデスクのご案内を頂きました。会議の合間合間も、家族農業生産者の生活向上に関してなど、話は尽きませんでした。このレポートに書ききれない、国際会議で出会った多くのファーマーや、直接お話しできなかったファーマーの皆さんとの再会も楽しみにしています。

 帰国前には、バスで一緒になった、ウグルアイから参加されたご夫婦と、世界一貧しい(清貧)元ウルグアイ大統領のホセ・ムヒカ&ルシア夫妻の農場の話で盛り上がりました。

 ワーキング・グループでご一緒した、ベトナムのガーデナー(Vietnam Gardening Association副議長)、Nguyen Xuan Hongさんとは帰りの飛行機で一緒になり、子ども達が飛行機の出発前のロビーで、その場で作った、折り鶴をプレゼントすると、「ベトナムにも折り紙の文化があるよ」と喜んでくれ、一緒に写真も撮りました。別れ際「家族農業の10年をめぐる色々な政策や資金などがあるけれど、末端の農民にその支援が行き届かなければ、このキャンペーンの意味はないから互いにファーマーとして尽力しようね」とお話しして、「今度は、ベトナムや日本で会おう!」と固い握手を交わして、乗り継ぎのパリの空港で別れました。

 帰国後、会議で何度もお声をかけて下さった、中米パナマの女性から「日本の農業の現状を会場で聞いて、まったくビックリした」と早速メールがありました。

 出発前には、SFFNJの賛同者の農家の方々からも「農民の小さな声を届けてきて!」とたくさんのお手紙を頂きました。この5月からはじまる、家族農業の10年を通して、小規模・家族農業を応援する皆さんとさまざまな場所で、スペイン・ビルバオでの今回の国際会議のことなど、直接意見交換できる日を楽しみにしています!

 最後は、バスク語で・・・、「ありがとう:Eskerrik asko」(スペイン語:Gracias)!!

第6回世界家族農業会議(2019年3月25~29日)inスペイン・バスク地方デリオ市&ビルバオ市

詳細情報: 世界農村フォーラム(WRF)

※記事内の写真は一部、世界農村フォーラム(World Rural Forum)より使用させていただきました。

前編はこちら


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